|
|
|
私には13歳ほど離れた山好きの従兄がいて、よく山の話しをした。従兄は同じ会社の仲間達と福岡近郊の山をあちらこちら登っていたようだ。いつだったか初めて購入したカラビナを見せてくれたことがあり、私も初めてそれに触った。何に使うのか全く分からなかったが「カチンカチン」という開閉音がとっても良い音だったことだけ覚えている。鋭い岩山に憧れがあった私が「槍ヶ岳って普通の人じゃムリだよね?」と言うと従兄は「たぶんな・・・遠いしね」。福岡から日本アルプスはまるで外国である。「じゃあ阿蘇の根子岳は?一緒に行かない?」「オレには無理かもなあ・・」
結局その後一緒に山に行くことも無く、従兄はまもなく亡くなってしまった。
普通の人が阿蘇山というと、それはほとんど噴煙を上げる中岳のことか、あるいは最高峰の高岳を指す。しかし私の目を捕らえて離さないのは、ゴツゴツとした異様な姿の根子岳である。私はこの根子岳を見るだけのために、車で仕事先に行くのにわざわざ遠回りしてこの山の周りをぐるりと走ったことがある。近くで見るとその異様さはますます恐ろしげに迫力を増し、なぜか震えが私をおそった。改めて畏敬の念という概念を感じさせる峰である。阿蘇山を遠めに眺めると、見事に仏様が仰向けに横たわっているように見える。根子岳はその仏様の「顔」の部分を担う重要な位置にあるということも、大いに注目すべきだろう。
(未登頂) |
|